Research story / 縦断研究 / 脳画像

14歳のIQは、その子の「完成形」なのだろうか

33人の10代をもう一度調べる。得点だけでなく、脳の変化まで追った研究。

2011年の論文33人を再検査読了目安 約9分

14歳のときに受けた知能検査。その数字を見て、「この子はこういうタイプだ」と周囲が納得してしまったら、3年後にもう一度測る意味はあるだろうか。

学校では成績も得意科目も変わる。何かに夢中になり始める子もいる。一方、IQは年齢に合わせて得点を換算するものだ。普通に成長して難しい課題を解けるようになっただけなら、同年齢のほかの人たちも成長するので、相対的な数字は変わらないはずだ。

そこで研究者は、同じ人のIQと脳を、10代の前半と後半で測り直した。 得点の上がり下がりが、単なる再検査のぶれではないのかを確かめたかったのだ。

同じ33人を、約3年半後にもう一度呼ぶ

2011年に『Nature』で報告された研究は、神経学的に健康な33人を対象にした。最初の測定時は12〜16歳、次は15〜20歳。平均年齢は約14.1歳から17.7歳へ移った。いずれも通常の学校教育を受けていた人たちで、研究のための特別な訓練をしたわけではない。

何を確認したか 1回目 2回目 なぜ両方必要か
年齢 12〜16歳(平均14.1歳) 15〜20歳(平均17.7歳) 成長期の変化を捉えるため
知能検査 年齢に適した子ども用尺度など 年齢に適した成人用尺度など 同年代を基準とする成績の位置を比較するため
脳画像 MRIで脳の構造を記録 再びMRIで記録 IQの変化と脳の変化が連動するかを見るため
人数 33人 同じ33人 人による違いを減らすため

ここで「同じ人を追いかける」のが重要になる。ある時点でIQの高い人と低い人の脳を比較すると、生育環境や年齢など、もともとの違いが結果に混じる。同じ人の変化を扱えば、そうした違いの一部を避けられる。

しかし同じ人であっても、検査の版が違うこと、測定誤差、偶然の好不調は消えない。だから、この研究はIQだけを見て終わらなかった。

得点は「全員同じ方向」には動かなかった

研究者が見つけたのは、言語的な知能の得点も、非言語的な知能の得点も、10代の間に上がる場合と下がる場合があったという事実だった。

「中学生より高校生の方がたくさん問題を解ける」というだけの話ではない。もともとIQは年齢の近い集団と比べてつくられる。つまり、周囲の同年代との相対的な位置が変わりうるということだ。

下の数字は研究の個人データではなく、その意味をつかむための架空例だ。

架空の例 14歳時点 18歳時点 読み方
Aさん 言語IQ 100 言語IQ 115 年齢別基準での相対的な位置が上がった例
Bさん 非言語IQ 115 非言語IQ 100 相対的な位置が下がった例
Cさん 言語IQ 100 言語IQ 100 できる課題は難しくなっても、相対的位置は近い例
「数字が動く」とは何が変わることか架空の二人を使った概念図。論文の参加者データではありません。
14歳 / 年齢別の位置100架空のAさんの言語IQ
18歳 / 年齢別の位置115別の年齢基準での位置

同じ検査の問題数で比べているわけではありません。年齢による発達は得点換算の基準に含まれます。

「数年で15点上がることもある」と安易に宣伝するための研究ではない。ここで示した15点はあくまで架空例で、この研究の平均変化や典型的な変化量を表さない。むしろ知っておきたいのは、成長期のある一点だけで、その後の相対的な位置を完全に固定できないことだ。

脳画像まで撮った理由

研究者は言語IQの変化と、言葉を扱う課題で活動する領域の灰白質密度の変化との関連を調べた。非言語IQについても、運動関連の領域における変化との関連を報告している。

観察した変化 関連が報告された脳の領域・働き 読み取れること
言語IQの変化 発話に関連する領域の灰白質密度 得点の変化が、脳の局所的な構造変化と一緒に現れた
非言語IQの変化 指の運動などに関連する領域の灰白質密度 異なる領域の変化と結び付いていた

ここが、この研究で最も面白いところだ。答えた問題の種類が違えば、関連する脳の変化の場所も違った。言語と非言語を何でも一つの「頭のよさ」にまとめるより、何が変わったのかを分けて見る必要が浮かび上がる。

ただし、脳のある部分が大きくなれば必ずIQが上がる、という因果関係を実験で証明したわけではない。両者の変化が関連していたのであって、その領域だけが知能を生み出しているという結論でもない。

2012年に、著者たちは説明を付け加えた

この論文には、翌2012年の『Nature』に追記(Addendum)がある。脳画像のデータから示した関連の大きさは、同じ33人のデータ内で求めた数値である。独立した別の人のIQ変化まで同じ精度で予測できるという意味ではない、と著者たちは明確にした。

これは細かい但し書きではない。統計モデルは、分析に使ったデータにはよく当てはまっても、初めて出会う人にはうまく当てはまらないことがある。33人という規模では、とくに慎重に扱う必要がある。

この研究が支持する理解 ここから先は言えないこと
10代では年齢基準のIQが上にも下にも変化しうる すべての10代で大幅に変化する
得点の変化と一部の脳の構造変化に関連があった 脳画像を見れば将来のIQが正確に予測できる
一度の測定で発達の全経過を捉えるのは難しい IQ測定は不安定だから役に立たない

数字の横に、年月日を書いておきたい

この研究を読んで、子どもの結果が思わしくなかったときに「あとで上がるから大丈夫」と言うのも、逆に高かったときに「どうせ下がるかもしれない」と言うのも違う。

一度の検査結果は、その時点での学び方や支援を考える材料になりうる。ただ、その紙に書かれた得点の横には、測定した日と年齢も書かれている。いつ測った数字なのか。 その当たり前の情報の重みを、この33人の研究は思い出させる。

参考:Ramsden et al.(2011), Nature, DOI: 10.1038/nature10514。追記:Ramsden et al.(2012), DOI: 10.1038/nature11113。原著と後続研究の公開本文・抄録を参照して編集。

原典と、確認した範囲

このページは研究論文を読み解く独立編集の記事です。本文中で研究の観察結果、著者の解釈、説明用の架空例を区別しています。診断や個人のIQ判定には利用できません。