Research story / 双子研究 / 遺伝と環境

成長すると、知能の「遺伝率」が高くなる?

約11,000組の双子を調べたら、9歳41%、12歳55%、17歳66%。この数字を人間の運命と読み違えないために。

2010年の論文約11,000組の双子読了目安 約9分

小さな子どもは家族が選んだ本を読む。時間割も、習い事も、多くを大人が決める。大きくなるにつれ、本人の好き嫌いが表に出る。好きなことを調べ、得意な教科に時間をかけ、苦手な分野は避けることもある。

そんな毎日を送るうち、生まれ持った違いよりも、経験の違いが大きくなりそうだと感じないだろうか。

ところが、約11,000組の双子のデータをまとめた研究は、知能の個人差について逆向きの結果を報告した。遺伝的な違いで説明される割合の推定値が、成長とともに大きくなっていたのだ。

41%、55%、66%。何の割合か

Haworthらの研究は、米国・英国・オーストラリア・オランダの6研究を統合した。平均年齢がおよそ9歳、12歳、17歳の群に分け、一般知能因子に関わる個人差の構造を双子の類似性から推定した。

比較した群 おおよその平均年齢 遺伝的な違いに対応する分散の推定割合(A) 家族などで共有する環境(C) 共有しない環境など(E)
子ども期 9歳 41% 33% 26%
思春期 12歳 55% 18% 27%
若年成人期 17歳 66% 16% 19%

最後の行が丸めの影響で101%になるのは、元論文の推定値を整数表示しているためだ。表は原著のモデル推定値(ACE)に基づく。年齢は各群の平均で、全員がちょうど9・12・17歳だったわけではない。

知能の個人差を統計モデルで分けるHaworth et al.(2010)Table 3の点推定をもとに再作図。
A 遺伝 C 共有環境 E 非共有環境など
平均9歳
413326
平均12歳
551827
平均17歳
661619

各行は構成比。最後の行は丸め前の比率に合わせて描画しています。数字は個人の能力を占める割合ではなく、集団内の分散の推定割合です。

ここで、一番間違えやすい点をはっきりさせたい。「17歳の知能の66%が遺伝で決まる」という意味ではない。 まして、ある子どものIQ130のうち86点は遺伝、残り44点は環境、と切り分けられるわけでもない。

研究が扱うのは、調べた集団の中で、人と人の得点にどんな違いがあり、そのばらつきがどう説明されるかという統計上の割合だ。

たとえば、同じ制服を着た集団と、服装が自由な集団を比べれば、身につけているものの個人差は変わる。ある特徴の「ばらつき」を説明する割合は、集団の条件によって変わりうる。知能の遺伝率も、その人の生涯で固定されたラベルではない。

なぜ双子を比べるのか

一卵性双生児は多くの遺伝情報を共有する。一方、二卵性双生児は平均すると遺伝的な共通性が通常の兄弟姉妹に近い。同じ家庭で育つ双子どうしの似かたを比べることで、遺伝・共有環境・非共有環境の影響を統計モデルで分解する。

原著の表には、たとえば子ども期で一卵性双生児の得点相関が0.74、二卵性双生児では0.53という数字がある。若年成人期はそれぞれ0.82と0.48。二卵性に比べて一卵性がより似ている部分から、遺伝的影響を推定する発想だ。

群 一卵性双生児の相関 二卵性双生児の相関 見えてくること
子ども期 0.74 0.53 どちらも似るが、一卵性の方がさらに似る
思春期 0.73 0.46 差が広がる
若年成人期 0.82 0.48 一卵性の類似性が高い

もちろん、双子研究にも前提がある。周囲が一卵性の双子をより似た環境で扱っていたらどうなるか。配偶者選択の傾向が二卵性の遺伝的共通性に影響しないか。研究者はモデルの成立条件を検討するが、遺伝子を一つずつ調べて個人の知能を計算した研究ではない。

変わっているのは遺伝子ではなく、暮らし方かもしれない

論文の著者たちは、遺伝と環境を敵同士に見立てる説明を採らなかった。むしろ、遺伝的な傾向があることで、本人が選ぶ環境も変わっていく可能性を考えた。これを遺伝子と環境の相関(genotype–environment correlation)という。

例えば、読むことが好きな子は、読む機会を自分で増やすかもしれない。図形を考えるのが好きなら、図形に関係する趣味へ進むかもしれない。元の傾向と、後から選ぶ経験とが重なっていく。

この例は仕組みを説明するための仮説であり、論文で一人ひとりの読書行動を直接測って、このメカニズムを実証したという意味ではない。それでも、「遺伝の影響が大きい」と「環境が重要ではない」が同義でない理由は見えてくる。

ところが、理科の成績では逆の変化が報告されている

ここで別の論文を読んでみると、話はさらに面白くなる。Haworthらによる別研究では、英国の2,500組を超える双子の理科の学習成績を9歳と12歳で比べたところ、遺伝率の推定値は64%から47%へ下がり、共有環境の割合は16%から32%へ上がった。

何を測った研究か 9歳ごろの遺伝率 12歳ごろの遺伝率 変化の方向
一般知能因子の個人差(11,000組研究) 41% 55% 上昇
理科の学習成績(別の双子研究) 64% 47% 低下

別の研究、別の指標、別の対象集団なので、数字をそのまま横並びにして「矛盾だ」と断定はできない。しかし、ここに重要な教訓がある。知能そのものと、学校のある教科の成績は、同じものではない。 同じ「遺伝率」という言葉を使っても、何を測っているかで話が変わる。

もし環境を変えたら、遺伝率の数字も変わる?

遺伝率が高くても、環境を変える意味はなくならない。遺伝率とは「その社会の条件下で、集団内の差をどのように説明できるか」という統計値だからだ。

十分な教育機会がどの子にも保障される集団と、教育機会が人によって大きく違う集団では、得点のばらつきに占める環境要因の割合は変わりうる。遺伝率が低いから努力次第、遺伝率が高いから努力は無駄、という二分法では説明できない。

この数字から特定の個人の可能性を断定することも、学校の支援を減らす理由にすることもできない。約11,000組という大きな研究が教えるのは、「生まれつき」と「育つ環境」は切り離された二つの箱ではないということだ。

参考:Haworth et al.(2010)The heritability of general cognitive ability increases linearly from childhood to young adulthood, Molecular Psychiatry 15, 1112–1120. DOI: 10.1038/mp.2009.55。対照する別研究:Haworth, Dale & Plomin(2009)Child Development 80, 662–673. DOI: 10.1111/j.1467-8624.2009.01289.x。

原典と、確認した範囲

このページは研究論文を読み解く独立編集の記事です。本文中で研究の観察結果、著者の解釈、説明用の架空例を区別しています。診断や個人のIQ判定には利用できません。